こたに医院 | 日記 | ハーグ条約。

国際化 globalization にともなって、国際結婚
は、増えています。
そして、時には、離婚になることもありますが、
その時、その夫婦間の子どもの処遇について
国民性や慣習の違いから、離婚後、さまざまな
問題が起こっているのです。
そういった問題の解決の手がかりのひとつが、
ハーグ条約だと考えられていますが、この条約
自体が、国民性や慣習の差異を十分に踏まえ
たものとは言えず、問題が一層混迷してしまって
いるのが、現状です。

オランダのハーグ、オランダ名デン・ハーグは、
かつての宮廷の冬宮があった北海に面した、
美しい街です。
現在、国際司法裁判所などの国際機関も多く
欧州に限らず、世界の中でも、重要な街です。
したがって、ハーグ条約と言っても、実は、いく
つかの条約がありこの離婚後の子どもの処遇
に関わるのは「国際的な子の奪取の民事面に
関する条約」で、１９８０年１０月に採択され、
１９８３年１２月に発効した、多国間条約です。

現在、国連加盟国１９２ヶ国中、まだ、８６ヶ国が
締結・批准しているにすぎません。
日本は、まだ、締結していません。
その理由が、今、大きな問題となっているのです。

この条約は「子どもの最善の利益を最大の目標」
としながらも、離婚後の「親権」を含む監護権を
侵害する形で、国境を越えた子どもの強制的な
奪取・連れ去り・留置などがあったとき、それらの
ようなことが起こること自体が、その子どもの利益
に対する重大な侵害であるとして、認識して、抑止
するとするものです。
と、ここまでは、まだ、妥当な内容ですが、問題は
その後。
何の選択の余地もなく「迅速、確実に、その子どもを
もとの国（常居所地）に返還すること」を大原則とする
国際協力も取り決めてしまっているのです。

この条約の前後、関わらず、多くの問題が生じている
のが、日本人の関わる離婚（特に、母親が日本人で
ある例）で、母親が離婚後、日本に帰国、その際に
子どもを連れ去るという事例です。
「親権」は離婚後の収入の有無に基づいて決められる
ため、多くの場合、本国に残る父親に認められます。
ですから、どれだけ、密接な親子関係で、実質、その
子どもの育児・教育に、父親が何ら、関与できていない
事例でも、父親のもとに留まることが強制されるのです。

この点「親子関係」についての、慣習や考え方の差異が
大きく影響されているのです。
大学病院で、臓器移植チームに配属されていたときの
ことを思い出します。
特に、腎臓移植。
日本での主流、生体腎移植（生きたヒトの腎臓を２つある
うちの１つを、他のヒト移植する）の中での、国民性の問題
です。
ちなみに、欧米では、死体腎移植（亡くなったヒトの腎臓を
移植する）が主なのです。
現時点では、夫婦間の生体腎もできるくらい、免疫抑制剤
がよくなっていますが、自分の時代は、ほとんどが「親子間
移植」でした。
その報告は、欧米では「なぜ、親が子どもに腎臓を提供でき
るなか？」っていう、無邪気な疑問を引き起こしていました。
いつも。

そうして、もう一つ、別の出来事がありました。
アメリカ国内の裁判所で、初めて「心中」が取り上げられた
事件でした。
日本企業のアメリカ駐在員の家庭での事件でしたが、仕事
が忙しく、家庭を顧みない夫の妻が子どもと心中を図りまし
たが、子どもだけが亡くなり、母親が生き残った事件です。
アメリカの検事は、子どもを殺したとして「一級殺人罪」の
適用を求めました。
けれども、弁護士が、日本の慣習としての「親子心中」の
ことを説明したとのことです。
裁判の経過・結果、その後、アメリカ国内で「心中」という
ものがどう理解されたか、不勉強で存じませんが、この事件
は、日本の親子関係が生まれてからも「へその緒」が付いた
まま「ともに生きる」というもので、だからこそ「ともに死ぬ」と
いうことができるのでしょうね。

そんな、日本の親子関係を下敷きにして、このハーグ条約
を見直してみると欧米諸国と比べて、きわめて濃厚な日本
の親子関係の中で、離婚して、日本に帰ろうとしている日本
人の母親が、突然、子どもを抱いて帰国の飛行機に乗ろう
として、誘拐罪で、阻止される背景も理解できます。
このハーグ条約の問題点は、そういった状況下、何の考慮
もなく、親権を持つ父親のもとに、強制送還されるという点
です。
多くの場合、母親と切り離してしまって、起こることの重大性
を決して無視できないでいるのです。